top of page
執筆者の写真はらだまほ

はじめて演じたときのこと。


自分の何かを語るにはまだ若いのではないか、、、と思いつつ、

"はじめて"はどんどんと薄れてしまうので、記録も兼ねて書いてみる。



 

20歳の時、わたしはあるオーディションを受けた。

なぜ受けたのかは覚えていないのだが、多分、演劇が主体のオーディションで、ダンス関係はおそらく私のみ、周りは俳優だらけ。

そのオーディションで、ある課題が出た。



「自分じゃない誰かになって、自分のことを紹介してください。」



今考えれば、他己紹介という課題で、とくに珍しいものではなかった。

しかし、その時の私はダンスしかやったことがない。

当然エチュードなんかやったことがないし、セリフも喋ったことがない。

他己紹介と急に言われても、誰に設定すれば良いのかもよくわからない。

ここで喋らず踊ってもよかったのだろうが、そんなことを思いつく引き出しもない。


もう順番がすぐそこに迫ってきている。

誰にしよう。


そんな中で、ふと思いついた人が、5歳〜21歳までお世話になった現代舞踊の師匠だった。

間違いなく落ちこぼれだった私は、スタジオの中でも群を抜いて、怒られる回数も多かった。

当たり障りなく人付き合いもうまかった私が、客観的に、1番、さまざまな感情を見たことがある人だった。


その人にしようと決めた。

両親でも、友達でもなく、ダンスの師匠。



何を喋るか考える暇もない。

何を喋れば良いのか戦略を練る余裕も、内容を精査する思考力ももうない。


とりあえず、やるしかない。

覚悟を決める暇さえなかった気がする。





覚えているのは、審査員が笑った瞬間だけ。

その瞬間だけ、とても覚えている。





あの、オーディションの、あの時間が、

私がはじめて何かを演じた瞬間だったように思う。

初めて自分じゃないものになり、誰かが喋っていた。

"私"のままじゃ絶対できないような、チャーミングで、愉快なあの人。

あれはなんだったのだろう。


その時の舞台では結局、私は言葉を話すことはなかったのだけど。

身体的にはものすごくしんどかったのも、それもまた思い出。


今でも、時々ふと思い出す。

多分、私が、はじめて私じゃない何かになった瞬間。


閲覧数:13回0件のコメント

最新記事

すべて表示

観劇記録

Comments


bottom of page